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第5回 第3号被保険者は不公平な制度か?

2021年3月号

先日のことですが、国民年金の第3号被保険者について、意見を交換する機会がありました。3号は皆さんもご存じの通り、厚生年金の被保険者に扶養されている配偶者で、一般的には、「保険料を納めないで国民年金を受給できる」と言われています。それ故、不公平な制度という風に思っている方が多いようで、これがまた、公的年金制度に対する批判や不信を生み出している一因となっているように感じます。

第3号被保険者は不公平な制度なのでしょうか。制度の枠組みを確認していきましょう。

第3号被保険者とは

まずは、第3号被保険者の定義から確認します。

第3号被保険者は、国民年金法第7条1項3号に以下の通り定められています。余談ですが第3号被保険者の「3号」というのは、この条文の番号に由来しています。また、1号~3号の順番を決めるとき、被扶養配偶者を2号にするのはまずいとかいう話があったとか....

【国民年金法第7条1項3号】第2号被保険者の配偶者であって主として第2号被保険者の収入により生計を維持するもののうち20歳以上60歳未満のもの。

上の条文中の第2号被保険者は、簡単に言えば厚生年金に加入している方ということですが、条文では以下のように定められています。

【国民年金法第7条1項2号】、【国民年金法附則第3条】厚生年金保険の被保険者(65歳以上の者にあっては、老齢または退職を支給事由とする年金たる給付の受給権を有しない被保険者に限る。)

通常、多くの方が65歳の時点では受給資格期間が10年以上あり、老齢年金の受給権が発生するので、「第2号被保険者=65歳未満の厚生年金加入者」と覚えているかもしれませんが、必ずしもそうではないということは頭に入れておいた方がよいでしょう。

第3号被保険者は不公平か?

第3号被保険者は、配偶者である第2号被保険者が厚生年金保険料を納めているので、自分自身では直接納める必要がありません。これに対して、以下のような批判をよく耳にします。

  1. 同じ厚生年金保険料を払っていても、扶養する配偶者がいる世帯と単身者の世帯で年金給付に差があるのは不公平だ。
  2. 自営業の夫婦世帯の場合は、扶養されている配偶者でも国民年金保険料を納める必要があるのに不公平だ。
  3. 非正規雇用で厚生年金に加入できないシングルマザーは、第1号被保険者として保険料を納めないといけないのに、専業主婦が保険料を納めずに年金を受けることができるのは不公平だ。

第3号被保険者に対する批判は、「保険料を納めていないのに、将来、年金給付を受けることができるのは不公平である」ということかと思います。しかし、これは誤解であることを以下に説明します。

第3号被保険者は保険料を納めている

厚生年金保険法に以下のような条文があります(太線は筆者が加えたもの)。

【厚生年金保険法第78条の13】(被扶養配偶者に対する年金たる保険給付の基本的認識) 被扶養配偶者に対する年金たる保険給付に関しては、第三章に定めるもののほか、被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識の下に、この章の定めるところによる。

この条文は、離婚分割について定めた部分のものです。太線部分の言わんとすることは、「配偶者を扶養している厚生年金加入者が納める保険料は、夫婦が共同で納めたものである」ということです。

したがって、例えば、月収40万円の夫と専業主婦(第3号被保険者)の妻の世帯では、夫が納めている保険料は、妻と共同で納めていることになります。これは、夫の給料の半分は妻のものであるということで、専業主婦の妻の「内助の功」に対する報酬を夫が妻に払っているということです。そうすると、この世帯は夫婦の月収が共に20万円の共働き世帯と年金の負担と給付は同じということになります。

これを模式的に表したのが下の図です(厚生労働省作成資料の抜粋)。世帯1人あたりの賃金が同じならば、負担と給付は同じになるということを理解しておきましょう。そうすると、先の不公平だという批判の①は誤解ということになります。

それでは、先の批判の②、自営業の夫婦世帯はどうなのでしょうか。自営業の場合は、夫の収入に関わらず、夫婦共に定額の国民年金保険料を負担し、これに対する将来の年金給付は基礎年金のみとなります。

残念ながら、これは仕方ありません。なぜなら自営業の世帯の場合、所得の捕捉ができていないからです。俗に、「クロヨン」あるいは、「トーゴーサン」と言われるように、給与所得者、自営業者、農林水産業従事者の所得の捕捉率は、「9割:6割:4割」あるいは「10割:5割:3割」で、第1号被保険者である自営業者と農林水産業従事者に対しては、厚生年金のような所得に応じた負担と給付の制度を導入できないので、「世帯1人あたりの賃金が同じならば、負担と給付は同じになる」という枠組みに組み込むことはできません。

第3号被保険者は減ってきている

このように、第3号被保険者は、公的年金制度の中で整合的に位置づけられており、不公平という批判は、妥当ではありません。

また、不公平という批判は、裏を返せば第3号被保険者は「お得」であると言えますが、それでは、第3号被保険者は増えているのでしょうか。

下の2つのグラフは、第3号被保険者数の推移を表したものです。上のグラフは、第3号被保険者の総数の推移を表したものです。ご覧のとおり、平成20年から現在(令和2年9月)に至るまで、2割強減少しています。

下のグラフは、年齢階層別に女性人口に対する第3号被保険者の割合を、平成20年と平成30年で比較したものです。この10年間で、第3号被保険者の割合は低下していて、特に若い世代でそれが顕著であることが示されています。

このように、第3号被保険者が減少してきているのは、結婚・出産を機に退職し、専業主婦になる従来のライフスタイルから、女性の社会参加が進むことによって、共働きを選択する世帯が増えてきたことが理由と言えるでしょう。このような流れは今後も変わらないでしょう。また、厚生年金の適用拡大によって、第3号被保険者であるパート主婦が、厚生年金に加入し第2号被保険者となれば、第3号被保険者の減少は加速され、これを問題視する批判も収まっていくのではないでしょうか。先の批判の③、シングルマザーのケースも、適用拡大によって保障を充実させることによって、より良い方向に行くでしょう。

ところで、上のグラフとコメントをSNSに投稿したところ、次のような返信が来ました。

「第3号被保険者期間の長い現受給者の給付を、若者が共働きによって支えているという構図ではないか」

私はこれを見て、「ああ、また世代間格差を煽っているのか.....」と残念な気持ちになりました。

昭和60年改正によって導入された第3号被保険者は、本来は同じ年に制定された男女雇用機会均等法によって、女性の社会参加が促進されることを前提とした、経過措置的な制度だったと言われています。

しかし、その後女性の社会参加が広がるには時間がかかり、そのような社会経済情勢の中で、3号に留まっていた女性たちの老後の生活を社会全体で支えることに対して、批判することが適切なのでしょうか。

また、共働き世帯にとっても第3号被保険者の制度は、セーフティネットとして役に立つ場面が想定されます。例えば、夫がスキルアップを目指して退職し、学校に通う場合、妻に扶養される第3号被保険者となることができます。これが、妻が専業主婦だったら、そういう訳にいかず、夫婦で第1号被保険者として保険料を納付しなければなりません。

これまで繰り返しお伝えしてきた通り、公的年金保険は私たちの生活のリスクに対して、社会全体の支え合いで備える仕組みです。私たちは、支えることもあれば、支えられることもあるということを理解するべきでしょう。

公的保険アドバイザー協会
アドバイザリー顧問
髙橋義憲

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