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年金相談の現場から 第5回 

2020年10月号  高齢者世帯の遺族年金について

今回は、高齢者世帯の遺族年金についてお話ししたいと思います。

遺族年金は夫の年金の半分??

年金事務所の相談窓口では、高齢夫婦世帯でご主人が亡くなって、奥様が遺族年金の請求にいらっしゃるケースが多いのですが、手続きを進めながら遺族年金の額を試算してお示しすると、「思ったより少なかった」とショックを受ける方が結構いらっしゃいます。

上のようなケースで遺族年金を請求する女性は、80歳台を中心とした高齢者なので、これから働いて収入を得ることは難しく、年金をメインに生活設計をしなければなりません。その年金が思ってたより少なければ、ショックを受けるでしょう

面白いことに(と言っては失礼かもしれませんが)、請求にいらっしゃる方は、遺族年金を既に受給している知り合いの方たちからのクチコミ情報で、遺族年金は夫の年金の半分と思っているケースが多いようです。

皆さんは、このような高齢者の方が制度を誤解しているということはお分かりになると思いますが、取り敢えずデータで確認してみましょう。

厚労省が公表している厚生年金保険・国民年金事業年報(平成30年度)によると、75歳~84歳の男性が受給している老齢年金(基礎年金と厚生年金の合計)の平均月額は18万円ほどで、一方、妻が受給している遺族厚生年金の平均月額は8.5万円ほどです。

そうすると、確かにこのデータを見る限り「遺族年金は夫の老齢年金の半分ほど」というクチコミ情報はあながち間違いではありません。しかし、これはあくまでも平均で、全員に当てはまるものではないことは言うまでもありません。

それでは、以下に高齢夫婦の遺族年金について確認していきましょう。説明上便宜的に、老齢年金を受給している夫婦世帯で夫が亡くなり、妻が遺族年金を受け取るというケースで説明しますが、「中高齢の寡婦加算」と「経過的寡婦加算」以外の部分は、夫と妻を入れ替えても説明は成り立ちますので、ご了承ください。

高齢者夫婦の遺族年金の仕組み

遺族年金は老齢年金同様、遺族基礎年金と遺族厚生年金がありますが、夫婦共に65歳以上で年金収入のみの世帯では、18歳の年度末を迎える前の子がいることはごく稀なので、遺族基礎年金はなしということにして、遺族厚生年金について説明します。

遺族厚生年金のポイントは以下の3つです。

(1) 遺族厚生年金の基本額
(2) 経過的寡婦加算
(3) 妻の老齢厚生年金との調整

それでは、それぞれについて説明しましょう。

(1) 遺族厚生年金の基本額
65歳以上で老齢厚生年金を受給している妻が、夫の死亡によって受け取る遺族厚生年金の額は、次のAとBを比較して高い方の額となります。

A:夫が受給していた老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3

B:Aの額の3分の2と妻の老齢厚生年金の額の2分の1を合計した額

あと、遺族厚生年金は亡くなった夫が老齢厚生年金を受給していたことが条件ですが、単に受給していただけでなく、夫の保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合計した期間(資格期間)が25年(300月)以上あることが必要です。

平成29年8月に老齢年金を受給するための資格期間は25年から10年に短縮されましたが、遺族厚生年金を受給するために必要な、亡くなった夫の資格期間は25年のままで短縮されていないので注意が必要です。

それでは、遺族厚生年金の基本額の計算方法を例を用いて見てみましょう。

【例】夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)が80万円で、妻の老齢厚生年金が50万円の場合

 Aの額:60万円(=80万円×3/4)
 Bの額:65万円(=60万円×2/3+50万円×1/2)
 したがって、65万円が遺族厚生年金の基本額になります。

この計算方法によると、妻の老齢厚生年金が、夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の2分の1より大きい場合は、Bの方が遺族厚生年金の基本額となります。

現在、遺族厚生年金の請求にいらっしゃる方は、いわゆるモデル世帯に近い方が多く、請求者の妻の老齢厚生年金はそれ程多くありません。したがって、Aで計算される額となることが多いのですが、若い世代では共働き世帯が増えているので、将来的にはBで計算されるケースが増えてくるでしょう。

また、Aで計算される額には、もし夫が老齢厚生年金を繰下げ受給していたとしても、繰下げによる増額分は含まれないので注意が必要です。

(2) 経過的寡婦加算
夫が死亡した時に妻が40歳以上65歳未満で生計を同じくする子供がいない等の要件を満たした場合、中高齢寡婦加算として586,300円(満額の老齢基礎年金の4分の3)が遺族厚生年金に加算されます

中高齢寡婦加算は、妻が65歳になるとなくなりますが、その代わりに経過的寡婦加算が付きます。また、65歳以降に夫が亡くなり遺族厚生年金を受給する場合でも、夫の厚生年金加入期間が20年以上あれば、経過的寡婦加算が加算されます

経過的寡婦加算の額は、下の表の通り、生年月日が後になるほど金額が小さくなっていき、昭和31年4月2日生まれ以降の方には、経過的寡婦加算はつかない仕組みとなっています。

生年月日によって、ずいぶん差が大きく、何か不公平に感じるかもしれません。でも、次のような理由があるのです。

昭和31年4月2日以降に生まれた方は、国民年金・厚生年金の新法が施行された昭和61年4月1日時点でまだ30歳未満で、旧法では任意加入だった専業主婦が新法では第3号被保険者として国民年金に強制加入して、老齢基礎年金の受取額を増やすことができるようになりました。したがって、経過的寡婦加算がなくても一定の年金額が確保できる、という理由で経過的寡婦加算がつかないのです。

【 経過的寡婦加算の額(年額)】

妻の生年月日 加算額
昭和2年4月1日以前586,300円
・・・(略)・・・・・・(略)・・・
昭和16年4月2日~昭和17年4月1日293,162円
・・・(略)・・・・・・(略)・・・
昭和30年4月2日~昭和31年4月1日19,567円

(3) 妻の老齢厚生年金との調整
遺族厚生年金の額は、(1)と(2)の合計ということになりますが、そこから遺族厚生年金を受給する妻が受け取る老齢厚生年金の分が差し引かれてしまいます。

先の例で考えてみると、遺族厚生年金の基本額が65万円で、受給者となる妻自身の老齢厚生年金が50万円ですから、妻が受け取る遺族厚生年金の額は、15万円ということになり、要件を満たせばこれに経過的寡婦加算が加算されます。

もし、妻の老齢厚生年金が(1)と(2)の合計額を上回る場合は、遺族厚生年金は支給されません。

あと、年金相談の窓口でよく聞かれるのが、遺族年金を受給すると自分の年金は受け取れなくなってしまうのか、ということです。もちろん、そんなことはありません。

妻自身の老齢年金は今まで通り受給しながら、(1)~(3)で説明した通りに計算された遺族厚生年金を終身で受給することになります。

それでは、事例としてモデル世帯の妻が、夫に先立たれた後に受給する遺族厚生年金を考えてみましょう。妻の生年月日は昭和16年4月2日とします。モデル世帯では夫婦それぞれが老齢基礎年金として78万円(月額6.5万円)受給し、夫はそれに加えて厚生年金(報酬比例部分)を108万円(月額9万円)受給しているという前提です。

上の(1)~(3)にしたがって妻が受給する遺族厚生年金を計算すると以下の通りになります。。

 (1) 基本額:81万円(=108万円×3/4)
 (2) 経過的寡婦加算:29万円(経過的寡婦加算の表より)
 (3) 妻は老齢厚生年金を受給していないので調整は不要

以上 (1)~(3)を合計すると、110万円となります。夫の受給していた老齢年金は186万円(=78+108)なので、その6割程度が遺族年金として妻が受給することになります。奥様方のクチコミの「夫の年金の半分」よりも少し多くなっていますね。ただ、実際は妻にもいくらか老齢厚生年金があるケースが多いので、その分を3の調整として110万円から差し引くと、「夫の年金の半分」にもっと近づくでしょう。

クチコミではなく自分自身の遺族年金の額を確認しよう

以上、高齢者夫婦世帯の遺族年金について解説してきました。奥様方のクチコミの金額も当たらずとも遠からずである一方で、やはりクチコミ情報を鵜呑みにせず、自分自身の遺族年金を正確に把握しておく必要があるでしょう。下のような要因によって、自分が受け取る遺族厚生年金は、クチコミ情報のものと大きく異なる可能性があるのです。

  • 夫の老齢厚生年金の額は加入期間や報酬額によって異なること
  • 経過的寡婦加算の有無
  • 自分自身の老齢厚生年金との調整

通常(?)は、夫婦共に元気で長生きできることが一番で、夫が先立った場合の遺族厚生年金の額を調べることは、気が引けるかもしれません。しかし、夫が亡くなって初めて金額を知り、それが思っていたより少なくて、生活できないとショックを受けないように、事前に専門家や年金事務所で確認しておく方が良いと思います。

このコラムを読んでいただいている会員の皆さまも、お客さまや知り合いに高齢者夫婦いらしたら、是非確認するよう薦めてあげてください。

公的保険アドバイザー協会
アドバイザリー顧問
髙橋義憲

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