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年金相談の現場から 第7回

2020年12月号 健康寿命を正しく理解しよう

今回は、年金の話ではなく、その関連する事柄として健康寿命についてお話したいと思います。老後の生活設計をする際の参考データとして目にすることの多い健康寿命ですが、その本来の定義や意味が正しく理解されているのでしょうか.....

健康寿命は延びている

まず、健康寿命の現状について確認しましょう。

下のグラフは、令和2年版厚生労働白書に掲載されている「平均寿命と健康寿命の推移」です。2001年から2016年にかけて、平均寿命(青線)と健康寿命(赤線)は、ほぼ同じように延伸していることが見て取れます。

男性の方は、平均寿命が2.91年(78.07→80.98)伸びているのに対して、健康寿命は2.74年(69.4→72.14)伸びています。女性の方も、平均寿命が2.21年(84.93→87.14)に対して、健康寿命が2.14年(72.65→74.79)伸びています。おおむね平均寿命が伸びた分は、健康寿命も伸びていると言え、これは私たちの老後にとってポジティブな事実ではないでしょうか。

一方、平均寿命と健康寿命の差は、2016年において男性が8.84年、女性が12.35年あり、これが「不健康な期間」ということになるわけですが、具体的にどのように解釈されているのでしょう。提供している商品やサービスが健康寿命と関係が深い企業のサイトにおいて、健康寿命がどのように説明されているか見てみましょう。

【某大手健康機器メーカー】
近年、「健康寿命」という言葉が聞かれるようになりました。健康寿命とは、介護や人の助けを借りずに起床、衣類の着脱、食事、入浴など普段の生活の動作が1人ででき、健康的な日常が送れる期間のことをいいます。

【某大手製薬会社】
私たちの寿命は延び続け、今では“人生90年”に手が届こうとしています。しかし一方で、自立した生活を送れる期間「健康寿命」が、平均寿命より男性は約9年、女性は約12年も短いことが分かりました。これは支援や介護を必要とするなど、健康上の問題で日常生活に制限のある期間が平均で9~12年もあるということです。

【某外資系生命保険会社】
平均寿命-健康寿命=介護などを要する期間
男性:平均寿命80.98年
   健康寿命72.14年(その差8.84年)
女性:平均寿命87.14年
   健康寿命74.79年(その差12.35年)
介護などが必要な期間は男女の平均で約10年!

どうやら、平均寿命と健康寿命の差である「不健康な期間」は、介護が必要な期間として認識されているようです。そして、70歳代の前半で介護が必要となると、いろいろ不安に感じてしまう方も多いのではないでしょうか。

しかし、健康寿命をこのように解釈することは正しくありません。

健康寿命の算出方法

健康寿命はどのように算出されているのでしょう。多分、多くの方は、医学的な調査に基づいて算出されていると思っているのではないでしょうか。

まず、健康寿命は以下のように定義されています。

健康寿命=日常生活に制限のない期間の平均

そして、「日常生活に制限のない期間の平均」は、3年ごとの実施される国民生活基礎調査(大規模調査)における以下の質問に基づいて算出されます。

【質問】あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか
1.ある 2.ない

この質問に対して「2.ない」という回答を「健康」とし、「1.ある」という回答を「不健康」として、これに平均寿命の基礎データである生命表の年齢別死亡率を合わせて健康寿命を算出します。

どうですか?意外とシンプルですね。質問に対する回答は、回答者の主観的な面も含まれるので、これで正確に健康寿命が測定されているのか、少々疑問に思います。しかし、全国的な大規模な調査において、具体的な評価基準を定めた上で、専門家が客観的な評価を行うというやり方は現実的ではなく、諸外国においても類似の方法が採用されているようです。

「平均寿命-健康寿命=介護を要する期間」ではない

さて、ここで今一度確認しておきたいことは、健康寿命における健康の定義は「日常生活に制限のない」ことです。そして、これは日常生活動作に限らず、運動やスポーツ等、幅広い活動について制限を与えることを「不健康」としているもので、これによって、直ちに介護を要する状態であるということを意味するわけではありません。

厚生労働省の「健康寿命のあり方に関する有識者研究会」の報告書では、現行の「日常生活に制限のない期間の平均」を指標とする健康寿命の他に、「日常生活動作が自立している」という別の指標を補完的指標として、要介護2以上となるまでの期間を算出しています。

下の図は、報告書から抜粋したもので、平均寿命(黄色の矢印)と現行指標による健康寿命(赤色の矢印)、それと補完的指標として要介護2以上になるまでの期間(青色の矢印)を並べたものです。

これによると、現行指標による健康寿命(赤色の矢印)だと、平均寿命(黄色の矢印)との差は、先程紹介した生命保険会社のサイトのとおり、男女の平均で約10年になりますが、要介護2以上となるまでの期間(青色の矢印)と平均寿命の差は、男性で1.51年(=80.98-79.47)、女性で3.3年(=87.14年-83.84)とかなり短くなります。

このように見ると、冒頭で紹介した企業のサイトで言われているような「平均寿命-健康寿命=介護が必要な期間」という説明は誤りで、これを鵜呑みにすると、老後の生活を過度に不安なものにし、場合によってはその生活設計を誤ってしまうことになりかねないので注意が必要です。

公的保険アドバイザー協会
アドバイザリー顧問
髙橋義憲

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