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年金相談の現場から 第2回

2020年4月号

世の中では、新型コロナウィルス感染拡大を防止するため、緊急事態宣言が発動され、不要不急の外出をしないように呼び掛けが行われています。

一方、年金事務所の窓口には、いつもとあまり変わらない数のお客さまがいらっしゃっています。厚生労働省のクラスター対策班の専門家によると、「2メートル以内で30分以上の会話」という接触は、感染のリスクを高めるとのことです。マスクを着用し、お客さまとの間にビニールのシートを吊っていますが、正直ちょっと心配です。換気のために窓を開けていると、風でビニールシートがお客さまの方になびいたりして……

年金請求の手続きは、郵送でも可能なので、できるだけ郵送でお願いしたいところですが、やはり、仕組みが難しいので、直接話を聞いておきたいという方も多くいらっしゃいます。コロナの影響で、収入が減ったので年金を頼りにしているというお客さまもいらっしゃるので、年金の専門家として仕事をしている身としては、今自分ができることで少しでも社会のお役に立ちたいと感じたりもした次第です。

さて、前置きはこのぐらいにして、今回は、配偶者加給年金について、お話ししたいと思います。

公的保険アドバイザーの資格を持っている皆さんであれば、配偶者加給年金については、以下のような感じで基本的なことはご存じかと思います。

厚生年金保険の加入期間が20年以上ある方が、65歳になった時に扶養する配偶者(65歳未満)がいる場合には、厚生年金に約39万円(年額)が加算される。

配偶者加給年金は、「年金の扶養手当」と呼ばれ、金額が大きいので、年金に関するトピックとしては、取り上げられるケースが多いようです。一方、現実の年金相談の場面では、ご夫婦の年齢や各々の年金加入歴によって加給年金が給付されるパターンは千差万別です。また、加給が漏れていたり、逆に加給が付かない方に支給されていたりするケースもあります。

そこで、配偶者加給年金がどの様に支給されるか、具体的な事例を用いて解説させていただきますので、この制度についてしっかりと理解を深めていただきたいと思います。

一般に加給年金と呼ばれるものは、配偶者だけでなく子が対象になる場合や、障害年金においても支給される場合がありますが、今回のコラムでは、老齢厚生年金の受給権者の配偶者を対象にした加給年金に限って解説をします。

また、今回は、これから年金を受け取る方を対象にした解説になっています。特別支給の老齢厚生年金で定額部分のつく方(昭和18年4月1日以前生れ)、厚生年金保険の加入期間における中高齢者特例の対象者(昭和26年4月1日以前生れ)など、既に年金を受給されている方については、解説と異なるケースもあるのでご了承ください。

配偶者加給年金の要件を確認しましょう

配偶者加給年金が加算されるのは、65歳到達時に以下の条件を満たす方です。

  • 厚生年金に240月(20年)以上加入している
    65歳到達時に240月未満でも、その後退職改定によって240月以上となった場合はその時点で、以下の生計維持要件の判定をします。
  • 生計を維持する65歳未満の配偶者がいる
    • 生計維持の要件
      ① 同居している(別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事柄があれば認められます)。

      ② 加給対象配偶者について、前年の収入が850万円未満、または所得が655.5万円未満。
    • 配偶者とは、婚姻の届出がなくても、事実上婚姻関係と同様の事情にある者も含む。
    • 65歳到達時(あるいは65歳以降退職改定によって240月以上となった時点)より後に配偶者となった者は対象にならない。

また、以下に該当する場合は、配偶者加給年金は支給停止となります。

  • 在職老齢年金制度によって、年金が全額停止となっている。
  • 配偶者が、加入月数240月以上の老齢厚生年金、障害基礎年金、障害厚生年金を受けている。
  • 老齢厚生年金を繰下げ受給するため待機している。

なお、次に示す事例でもそうですが、一般的には年上の夫に加給年金が付くケースが多いのですが、制度上は男女の区別はないので、妻の方に加給年金が付くケースもあります。

事例を見て理解しましょう

下の2つの事例を見て下さい。いずれも、夫が5歳年上で、厚生年金に20年以上加入し、妻は結婚する前、厚生年金に5年間加入していたという、同じ前提です。両者の違いは、妻が再び仕事に就いて、厚生年金に加入する年齢(事例1は45歳、事例2は50歳)です。

事例1では、夫が65歳到達時、妻の方は年金の受給権が発生していないので、夫の厚生年金に加給年金がつきますが、妻が62歳になって、特別支給の老齢厚生年金(特老厚)が支給開始となると、その年金の基礎となる加入期間は22年間なので、夫の加給年金は支給停止となってしまいます(但し、妻の特老厚が在職老齢年金制度によって全額支給停止となる場合は、夫に加給年金が支給されます)。

一方、事例2では、事例1と同様に夫が65歳到達時から加給年金が付きますが、妻が62歳になった時点で支給開始となる年金の基礎となる加入期間は17年間なので、夫の加給年金は引き続き支給されることになります。

いずれの事例でも、妻が65歳到達時には、厚生年金の加入期間が240月以上となっているので、妻に振替加算はつきません(振替加算については、今回はこの程度の解説に止めておきます)。

ところで、皆さんは、この2つの事例を比較して、どのように感じますか?

事例1のように、妻の厚生年金の加入期間がちょっと長くなってしまったために、夫の加給年金が3年分も少なくなるなら、妻は60歳の直前に退職するか、働く時間を短くして、厚生年金の加入期間を20年未満に抑えようと考えるかもしれませんね。

年金相談の窓口でも、「夫に加給年金が付くようにするには、私はいつまで厚生年金に加入できますか」という質問をいただくことがあります。確かに、年間で39万円という加給年金は、少ない額ではありません。

しかし、ここで前にお話しした「公的年金の役割」を思い出してください。そう、公的年金は就業によって収入を得ることができなくなった時の生活保障、保険なのです。したがって、年金の給付額だけで判断することは、あまり意味がなく、就業による収入も含めて検討する必要があるでしょう。

そうすれば、加給年金の年間39万円という額は、自分が働いて得ることができる収入と比較して、それ程大きな額ではなく、働いて得られる収入をわざわざ減らして、加給年金を受けようとすることがナンセンスであることに気が付いていただけるでしょうか。

また、夫が繰下げ受給を選択すると、繰下げている間は加給年金は支給されず、繰下げによる増額の対象にもなりません。事例2で70歳まで繰下げると、加給年金が5年分で合計200万円近く受け取れないことになるので、「繰下げは基礎年金だけにした方が良い」というアドバイスを目にすることがあります。しかし、私は、ここでも公的年金は長生きリスクに備える保険であるという事を強調したいと思います。90歳を超えて長生きすることが普通になってきていることを考えると、目先の加給年金を受け取るために繰下げをしないということは、理にかなっていないと思うのですが、皆さんはどのようにお考えでしょうか。

長期加入者の特例・障害者の特例について

加給年金に関連して、特別支給の老齢厚生年金の受給権者に適用される、長期加入者の特例、および、障害者の特例について触れておきたいと思います。

この特例は、以下の条件に該当する特老厚の受給権者(厚生年金の被保険者でない者に限る)には、報酬比例部分と合わせて、定額部分が支給されるというものです。

 ① 長期加入者の特例:厚生年金に44年(528月)以上加入している。

 ② 障害者の特例:障害年金の等級(1級~3級)に該当する程度の障害状態にある

①については、例えば、高校卒業後就職し、62歳までずっと働いて厚生年金に加入してきた方が想定されます。そのような方であれば、ここは一度退職をして、定額部分と報酬比例部分を合わせた特老厚を受給しながら、65歳以降の第二の人生に備える、というような選択肢が考えられます。

また、②については、自分が障害年金の等級に該当するような状態か否か分からず、特例の請求をしていないケースがあり得ます。例えば、大動脈瘤を患い人工血管を挿入した方とか、転倒して骨折し人工関節を挿入したような方は、障害年金の受給要件を満たさなくても、障害状態が3級以上と認められれば、障害者の特例に該当する可能性があります。

特例に該当し、定額部分が支給されると、その時点で配偶者加給年金の要件を満たしていれば、65歳前でも加給年金が付くことになります。ただし、いずれの特例も「厚生年金の被保険者でない」ことが要件となっているので、60歳台前半の働き方を踏まえて特例制度の活用を検討する必要があるでしょう。

加給年金を受給するための手続き

それでは、加給年金を受給するための手続きはどのようにするのでしょう。基本的には、老齢厚生年金の手続きに付随して行われるのですが、気をつけないと請求漏れとか、逆に過払いとなるケースがあるので注意が必要です。

以下に、事例1を例にして、手続きの流れを説明します。

① 夫の支給開始年齢に達する3ヵ月程前に、年金請求のための書類が郵送されます。書類に必要事項を記入し郵送するか、もしくは年金事務所で提出をします。その際に、婚姻関係を確認できる戸籍、世帯全員の住民票、妻の所得証明を添付する必要があります。

② 夫が65歳に達する月に、65歳からの年金の受給方法について指図をするためのハガキが郵送されます。65歳から受給する場合には、自分の氏名、住所、そして、加給年金の対象になる妻を生計維持していることをハガキに記入して、返信します。

③ 加給年金が加算された老齢年金が支給されます。また65歳以降毎年「現況届」というハガキが送付されるので、住所、氏名、加給年金対象の妻を生計維持していることを記入して、返信します。もし、夫の65歳後に妻の年収が増えて850万円を超えた場合は、生計維持の状態が止んだことになり、加給年金は止まってしまいます。

④ 妻の支給開始年齢に達する3ヵ月程前に、年金請求のための書類が郵送されます。夫の時(①)と同様に手続きをします。ここで、妻の年金が加入月数240月以上であることが確認され、夫の加給年金が支給停止となります。

さて、①~④の手続きが適時、適切に行われないと、加給年金が正しく給付されず、請求漏れや過払いが発生してしまう可能性があります。事例1のような場合だと、妻が支給年齢に達した時に、速やかに請求手続きをしなかったため、夫の方に加給年金が誤って支給され続けていたというケースがありました。そのような場合は、過払いとなった分をお客さまから返還をしていただかなければならず、余計な負担をかけることになってしまいます。

現在、年金事務所ではマイナンバーの活用が進んできて、年金請求の手続きの添付書類として紹介した、住民票と所得証明については年金事務所で確認することが可能になっています。しかし、戸籍については年金事務所では確認することができないので、請求手続きの都度、添付書類を通じて確認し、それを給付情報に反映する必要があるのです。

将来的に、戸籍情報が年金事務所で検索できるようになれば、請求手続きはもっとスムースになるのでしょうが、当面は、支給開始年齢になったら速やかに手続きを行うよう、周知していくことが必要ですね。

以上、今回は老齢厚生年金の配偶者加給年金について解説しました。次回の「年金相談の現場から」は、65歳までに年金を増やす方法として、国民年金の任意加入と老齢厚生年金の経過的加算について解説する予定です。

公的保険アドバイザー協会
アドバイザリー顧問
髙橋義憲

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