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第4回 繰上げ受給と障害年金

2021年2月号

今回は、繰上げ受給と障害年金というテーマです。年金事務所の窓口では、数は多くありませんが、繰上げ受給の相談を受けることがあります。その際に、繰上げ受給の注意事項として、以前のコラムで説明した、以下のようなことをお伝えしています。

【繰上げ受給の注意事項】

  • 一生減額された年金を受け取ることになり、取り消しはできない。
  • 寡婦年金を受けることができなくなる。
  • 障害年金を請求できなくなる場合がある。
  • 65歳前に遺族年金の権利が発生した場合は、繰上げた老齢年金との選択になる。
  • 国民年金に任意加入することができなくなる。

この中で、3番目の「障害年金を請求できなくなる場合がある」という点ですが、少しモヤモヤしませんか?年金事務所の窓口でも、このように説明すると、「障害年金を請求できなくなる場合があるということは、請求できる場合もあるのでしょうか?」という質問を受けることがあります。

はい、確かに請求できる場合があります。

繰上げ受給しても、障害年金の請求ができる3つのケースを示します。いずれも、障害認定日(初診日から1年6か月か、症状固定のいずれか早い方)での請求になります。事後重症など他の請求方法は、65歳までという制限があり、繰上げ受給した場合は、年金上は65歳になったものと見なされるので、対象外となります(障害年金に関する基本的な事項は、以前に解説したコラムをご参照ください)。

① 初診日が国民年金の加入期間にある場合
下の図のように、初診日が国民年金の加入期間にある場合(60歳以降の任意加入も含む)は、障害認定日が繰上げ請求後であっても、障害認定日で請求することができます。認定日で障害年金に該当した場合は、65歳までは繰上げた老齢年金と障害年金のいずれかを選択することになります。65歳以降は、障害基礎年金と老齢厚生年金の併給が可能です(年金の選択と併給については、以下の②、③でも同じです)。

② 初診日が60歳以上65歳未満の国民年金未加入期間の場合
障害基礎年金では、初診日が国民年金の加入期間でなくても、60歳から65歳になるまでの間であれば(国内在住要件あり)、請求できます。このようなケースにおいて、繰上げ受給した場合でも、初診日と障害認定日が繰上げ請求日の前であれば、認定日請求することができます。下図を時系列でみると、障害年金の請求を先にするような形になっていますが、実際は、繰上げ請求後に、障害年金の認定日請求を遡って行うことをイメージしたものです。

③ 初診日が厚生年金加入期間である場合
60歳以降も厚生年金に加入している場合、初診日が厚生年金の加入期間にあれば、繰上げ請求した後でも、障害厚生年金を請求することができます。

以上の3つが繰上げ受給を請求した場合でも、障害年金を請求できるケースです。①と②のケースでは、初診日が繰上げ請求前にありますが、このように繰上げ請求する時点で何かしらの持病がある場合は、慎重に検討した方が良いでしょう。繰上げをしなければ、障害認定日以降に症状が悪化した場合でも事後重症請求をすることができます。

また、老齢厚生年金には、障害等級(1級~3級)に該当すると、障害者特例で定額部分が支給されますが、繰上げた場合には定額部分は支給されないということも頭にいれておくと良いでしょう。

繰り返しになりますが、持病等で健康に不安があり、長生きする自信がなくても、安易に繰上げ受給を選択すると、持病が悪化した時にかえって困ったことになってしまう可能性があるので注意が必要です。

60歳退職で繰上げ請求する場合

もう一つ、繰上げ請求で最近相談のあったケースを紹介します。

相談者は、今年の5月に60歳を迎える男性(昭和36年5月生まれ)で、60歳以降は働くつもりはなく、年金を繰上げて生活費を賄う予定で、繰上げ受給した場合の年金額を確認するために窓口に相談にいらっしゃいました。

この方は、高校を卒業後就職し、以来ずっとサラリーマンとして働いてきたので、60歳になったらゆっくりしたいとのことでした。私は、60歳まで繰上げた場合の年金額を提示し、繰上げについての一般的な注意事項を説明したうえで、以下のようなアドバイスをしました。

  • とりあえず、退職後1年程充電のつもりでゆっくりして、今後のライフプランを考えてみてはどうか。
  • 充電期間中の生活費は、いきなり年金の繰上げで賄うのではなく、退職金を活用するという方法もあるのではないか。
  • 再就職する場合に備えて、雇用保険の「受給期間延長」の手続きも忘れずに。そうすれば、1年後に就職活動をする際には、失業給付を受給することができる。
  • 年金を繰上げて受給しても、失業給付と両方を同時に受給することはできないので注意が必要。

年金事務所の窓口なので、キャッシュフロー表を活用した詳細なプランニングはできませんが、皆さんだったらどのようなアドバイスをしますか?繰上げ受給の選択は、最終的にはお客さま自身の要望に従うしかありませんが、やはり、余命宣告を受けているとか、余程の事情がなければ、お薦めしたくありませんね。お客さまが自然に繰上げ受給を思いとどまるようなアドバイスの方法を考える必要があると思います。

公的保険アドバイザー協会
アドバイザリー顧問
髙橋義憲

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