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第11回 ねんきん定期便の変更点について

2021年6月号

今回は、「ねんきん定期便」についてのお話です。会員の皆さまにとって、ねんきん定期便(以下「定期便」と呼びます)は基本中の基本なので、よくご存じだとは思いますが、今年度から50歳以上の方に送付される定期便に一つ重要な変更が行われたことはご存じでしょうか。

下の定期便をご覧ください。この中に、4月から新たに追加された情報がありますが、お分かりになりますか?

答えは、定期便の裏面「3.老齢年金の種類と見込み額」の下に※で示されている部分です。以下の文章が、今年度から追加されました。

今年度から、報酬比例部分の年金見込み額に「厚生年金基金の代行部分」が含まれるようになりました。

キーワードは、「厚生年金基金の代行部分」です。厚生年金基金(以下「基金」と呼びます)とは、企業年金制度として1966年に始まった制度で、1996年には1800余りの基金が存在していました。基金による年金給付は以下のような仕組みになっています。

厚生年金基金の代行部分とは

基金は、厚生年金保険料の一部を預かり、運用することによって、国から支給される老齢厚生年金の一部を肩代わりして「基金代行部分」として支給し、さらに「プラスアルファ部分」を上乗せすることとされていました。

バブル前に設立された基金の多くは、予定利回りが5%を上回る水準に設定されており、やがて、バブル崩壊後の低金利の長期化による運用難のために財政が悪化してきました。それを何とか補おうと無理をした結果、2012年には「AIJ投資顧問」による不祥事により、1000億円を超える損失を被る基金が出て、基金を解散させる制度改正の契機となりました。

現在は、新規の基金設立はできず、ピーク時に1800余りあった基金のほとんどは、代行部分を国に返上し、確定給付型企業年金に移行、解散したため、以下の5つの基金が存続するのみとなっています。

【存続している厚生年金基金(2021年5月1日現在)】

■ 全国信用金庫厚生年金基金
■ 国会議員秘書厚生年金基金
■ 全国信用保証協会厚生年金基金
■ 道路施設協会厚生年金基金
■ 三井不動産リアルティ厚生年金基金

基金の加入期間がある方の年金は、以下のように支給されています。代行部分は、2014年(平成26年)3月31日以前に解散した基金については(図の【2】)、企業年金連合会から支給されますが、2014年4月1日以降に解散した基金については(図の【1】)、国から支給されることになり、「代行部分」ではなくなります。

また、厚生年金基金を短期間で脱退した「中途脱退者」に対しては、上の【2】と同様に、企業年金連合会から支給されることになります。昔、基金のある企業に勤務していた方などは、これに該当しますが、昔のことですっかり忘れているケースが多くあります。

厚生年金基金の受給年齢に達していながら年金の請求をしていない方は、2019年度末において115万人もいます。これから説明する方法で、定期便やねんきんネットで確認の上、該当する可能性のある場合は、企業年金連合会に確認することをお薦めします。

代行部分をねんきんネットで見てみよう

それでは、定期便やねんきんネットで、代行部分をどのように確認するか、説明しましょう。

まず、定期便による確認方法です。冒頭で説明した通り、今年度から50歳以上の方に送付される定期便の「一般厚生年金期間の報酬比例部分」には、代行部分が含まれるようになりました。ただし、残念なことに代行部分の有無までは表示されていません。

したがって、前年度の定期便と比較して、もし、年金額が増えていたら代行部分が含まれている可能性があります。しかし、定期便の年金額は他の要因でも増減するので、この方法で代行部分の有無を確認するのは、ちょっと難しいかもしれません。

そこで、確実に代行部分の有無とその金額を確認するためには、ねんきんネットを使う必要があります。ねんきんネットを使うためには、最初に利用登録をする必要があります。利用登録すると、IDとパスワードが交付されるので、それを使ってログインしてください。ログイン後、メニューの「将来の年金額を試算する」を選び、「かんたん試算」で年金額を試算すると、下のような試算結果が表示されます。

ちなみに、ここに表示されている結果は、私のIDでログインして試算したものですが、私自身の加入記録に架空の記録を追加して試算したものなので、あしからず。

この試算結果の「金額の内訳」をクリックすると、以下のような画面が表示され、一番下に「(ご参考)基金代行部分(月額)」として、「40,841円」と表示されています。

この例の場合だと、昨年度までは定期便の報酬比例部分の年金額には、653,748円(=54,479円×12)と記載されていたものが、今年度からは、代行部分の490,092円(=40,841円×12)が加算されて、1,143,840円と記載されることになります。

これだけ差があると、定期便の金額を比較すれば代行部分があることは容易に推測できると思いますが、代行部分の金額の多寡は人それぞれです。できれば、ねんきんネットで確認する方が確実ですね。

あるいは、定期便にもう一工夫凝らして、代行部分を分けて記載するか、そのためのスペースがなければ、代行部分がある場合に報酬比例部分の年金額の横にでもマークをつけてもらえると助かりますね。

現在は、厚生年金基金制度は無くなりつつありますが、私のように1990年代に就職した40歳~50歳代の方の中には、昔の勤務先で基金に加入して、その後退職、転職によって脱退した後すっかり忘れている場合も多いと思います。

代行部分の有無を定期便、ねんきんネットで確認し、代行部分がある場合は、是非、企業年金連合会に連絡して、代行部分に上乗せされるプラスアルファ部分の有無と金額を確認してください。プラスアルファ部分は、ねんきんネットでも表示されないので、これを含めた年金額に基づいて、老後の生活設計をする必要があるでしょう。

在職老齢年金と代行部分

さて、代行部分に関する応用的な事例として、在職老齢年金との関係について見てみましょう。先にお示しした、ねんきんネットの事例で、65歳以降、標準報酬月額41万円で就労する事例を考えてみます。

ねんきんネットに、65歳以降、標準報酬月額41万円で就労するというシナリオを追加して、年金額を試算すると、以下のような結果が得られます。老齢厚生年金と老齢基礎年金は、先に示したものと同じ金額ですが、「支給停止見込み額(月額)」という欄に、「△17,644円」と表示されています。一定以上の収入で厚生年金に加入していると、年金額が減額されてしまうのが在職老齢年金の仕組みでしたね。

この時に注意が必要なのは、支給停止額を計算する基となる厚生年金の額には、代行部分も含まれるというところです。具体的な計算式は以下のようになります。

・厚生年金(報酬比例部分)の月額=54,479円-33円+40,841円=95,287円
(※33円は経過的加算額。支給停止額を計算する際には、報酬比例部分のみが対象となる。)
・報酬月額相当額=410,000
・支給停止額=(95,287+410,000-470,000)÷2=17,644円

支給停止額が、報酬比例部分の金額を上回っているため、経過的加算(33円)を除いた金額(△54,446円)が停止となっています。

それでは、国が支給する報酬比例部分から減額しきれなかった差額8,198円(=62,644円-54,446円)はどうなるのでしょうか。

これは、代行部分を支給する基金の規約によって異なります。国の報酬比例部分から減額しきれなかった分は、代行部分から減額される場合もあれば、代行部分は影響を受けず全額支給される場合もあります。これも、加入していた基金、あるいは企業年金連合会で確認する必要がありますね。

以上、今年度のねんきん定期便の変更点である「厚生年金基金の代行部分」について解説しました。制度開始当初は、高い運用利回りを想定して、国の厚生年金を上回る給付を目指した厚生年金基金ですが、結局運用難のために国を上回るどころか、代行部分でさえも支給できなくなり、ほとんどが解散、代行返上ということになってしまいました。

ところで、厚生年金基金の財政方式は積立方式であり、基金の問題は、そのまま積立方式の問題と見ることができるのではないでしょうか。インフレや市場動向に左右されずに、年金を安定的に支給できる仕組みとしては、賦課方式が優れていることを改めて感じさせる事例ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

公的保険アドバイザー協会
アドバイザリー顧問
髙橋義憲

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