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第31回 公的年金シミュレーターを体験しよう 

2022年5月号

今回は、4月25日に厚生労働省がリリースした「公的年金シミュレーター」について、紹介したいと思います。

公的年金シミュレーターは、スマートフォンで簡単に年金額が試算することができるツールです。年金額の試算は、これまで「ねんきんネット」を使って行われていましたが、アクセスキーやマイナンバーカードを使った利用登録が必要で、少々手間がかかるものでした。

また、スマホでもねんきんネットを利用することは可能ですが、パソコン用の画面をスマホに表示しているだけで、文字が小さく、データ入力のインターフェースも使いづらいものでした。

そこで、スマートフォンの特性を生かし、誰もが簡単に自分の年金額を試算できるように開発されたのが公的年金シミュレーターなのです。

公的年金シミュレーターについては、下の厚労省ホームページに情報が公開されています。

公的年金シミュレーター使い方ホームページ(試験運用中)(mhlw.go.jp)

公的年金シミュレーターの基本

まずは、公的年金シミュレーターの基本的な使い方は以下のとおりです。

1.ねんきん定期便の赤い点線で囲ったところの二次元コードを読み取る。

2.下の画面に生年月日を入力し、「試算する」をタップします。

3.すると、下のような見込み額の試算結果が表示されます。これは、現在の加入状況が60歳になるまで継続するという前提状況で試算されたものです。年金を65歳から受給する場合は、年額で194万円となることが分かります。
また、画面下の年収、何歳まで働くか、そして受給開始年齢を変えることによって、年金額が変化します。条件の変更はスライドバーを使ってできるので、簡単に年金額のシミュレーションができます。

以上が、公的年金シミュレーターの基本的な使い方ですが、ねんきん定期便に二次元コードが貼られるのが、今年の4月分からなので、今年の誕生月にねんきん定期便が送られてくるまでは、このように二次元コードを読み込んで試算をすることができません。

そこで、二次元コードを使わずに試算する方法について説明し、併せて年金額試算の詳細についても確認していきたいと思います。

公的年金シミュレーターの応用編

まずは、下の二次元コードを読み込みシミュレーターを起動すると、基本編と同様に生年月日の入力画面が表示されるので入力します。

次に、これまでの加入記録を入れます。ここで、左下図のように20歳から40年間の加入記録を入力し、「試算する」をタップすると、右下図のとおり試算された年金額が表示されます。65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金合わせて182万円となることが分かります。

ところで、上のような単純な加入歴であれば、年金額は電卓で計算できると思う方もいるのではないでしょうか。厚生年金の額は、下の計算式を思い浮かべる方もいると思いますが、これに定額の老齢基礎年金(777,800円)を足すと、どうなるでしょう。

厚生年金の年金額:500万円×5.481/1000×40(年)

これを電卓で計算すると187万円となり、シミュレーターの計算結果(182万円)と少しずれています。

それでは、シミュレーターの計算式はどうなっているのでしょう。厚生年金の計算は少々複雑になっています。

まず、年収の500万円を月給と賞与に分けますが、その割合をそれぞれ85%と15%と仮定しています。

そうすると、月給は425万円÷12で35.4万円となりますが、これを標準報酬月額の等級に当てはめると36万円になります。したがって、厚生年金を月給と賞与に分けて計算すると以下のとおりになります。

  • 月給部分:36(万円)×5.481/1000×480(月)×0.936
  • 賞与部分:75(万円)×5.481/1000×40(年)×0.936

それぞれの計算式に乗じている「0.936」は再評価率で、過去から現在にわたり異なる時点の報酬額を、同じ現在価値に引き直すためのものです。

これを計算して、老齢基礎年金(777,800円)を足し合わせると、シミュレーターの結果と同じ182万円となります。

あと、もう1つの注意点としては、期間の入力です。「20歳~59歳」と入力されていますが、これで「20歳から40年間厚生年金に加入」ということを意味します。もし、「20歳~60歳」と入力してしまうと、60歳11か月まで含まれてしまい、40年間を超えてしまうので注意が必要です。

シミュレーターのバグ?

それでは、上の試算に別の条件を加えてみましょう。60歳から65歳になるまで、年収300万円で働いたら、年金額はどのように変わるでしょう。

まず、追加の条件を入力します。「働き方・暮らし方の追加」をタップし、左下図のとおり、60歳~64歳で年収300万円と設定します。そして「試算をする」をタップすると、右下図のようになります。

60歳以降の厚生年金加入では、基礎年金は増えないので、先の計算同様に厚生年金の額を計算してみましょう。年収300万円を月給と賞与に、それぞれ85%と15%と分けると、月給の標準報酬月額は22万円、賞与は45万円となり、厚生年金の額は以下のように計算できます。

  • 月給部分:22(万円)×5.481/1000×60(月)×0.936
  • 賞与部分:45(万円)×5.481/1000×5(年)×0.936

これを計算すると、厚生年金の額は8万円程になりますが、これだと、先の182万円に加えても190万円となり、シミュレーターの200万円とは10万円の差があります。この違いはなんでしょうか。

私は、これはシミュレーターのバグではないかと思っています。どういうことかというと、60歳以降に厚生年金加入したについて、経過的加算を誤って計算しているのです。経過的加算は下の式で計算され、わずかな金額にしかなりません。

経過的加算:1621(円)×480(月)-777,800(円)=280円

ところが、シミュレーターでは、上の式の最初の項で480月が上限と定められているにも関わらず、これを60歳以降の加入期間も含めて540月で計算しているようなのです。そうすると、経過的加算は97,540円となり、上の検証で出た10万円の差が説明できることになります。

私はこれを、下の「「国民の皆さまの声」募集 送信フォーム」から、バグの確認をしてもらうよう意見を送りました。

「国民の皆様の声」募集 送信フォーム|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

他にも、シミュレーターで改善して欲しい点はあります、例えば、

  • 年金額を表示するグラフに、基礎年金と厚生年金の内訳を入れる。
  • 受給開始年齢で繰り下げる場合には、基礎年金と厚生年金を別々に設定できるようする。

といったところでしょうか。

皆さんも、公的年金シミュレーターにじかに触れて、意見や要望をどんどんあげましょう。このツールが様々なシーンで活用され、公的年金に対する理解が高まるといいと思っています。


公的保険アドバイザー協会
アドバイザリー顧問
髙橋義憲

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