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第15回 年金事務所の窓口から(遺族年金について)

2021年8月号

公的保険アドバイザー協会会員の皆さま、こんにちは!ファイナンシャルプランナーの髙橋です。

少し前の日本経済新聞に、障害年金に関する解説記事(2021年7月10日付、「障害年金 うつ・がんも対象 知らずに未申請、時効は5年」)が掲載されていました。記事の見出しにもあるとおり、障害年金に該当するような方でも、制度について知らなかったために請求していないというケースが結構あるということです。

日頃、「公的年金は、老齢、障害、死亡といった私たちの生活におけるリスクに備える保険です」とお伝えしている立場としては、制度が適切に利用されるように、障害年金や遺族年金など、制度全般について情報発信をしていく必要がありますね。

ということで、今回は、最近年金事務所の窓口で受けた遺族年金の相談事例について、ご紹介したいと思います。事例の内容は以下のとおりです。

【相談者】55歳男性、会社員(年収900万円)

【相談内容】平成28年9月に妻を病気で亡くしたが、遺族年金を受け取ることができるのではないかと知人にアドバイスをされ、相談のため来所。

【亡妻の加入歴】厚生年金の加入中に死亡。それまで、厚生年金には通算で9年加入。国民年金は、1号被保険者期間4年(すべて保険料は納付)、3号被保険者期間15年。

【家族構成】妻がなくなった当時、小学校6年生の子が1人いて、相談者と生計を同じくしている。

さて、この相談者の方は、知人のアドバイスどおり遺族年金を受けることができるのでしょうか。以下に解説していきますが、まずは皆さん各自で、相談者の方が受け取ることができる遺族年金について考えてみてください。

それでは、ポイントを確認していきましょう。

(1)夫の受給要件について

夫が遺族年金を受けるには、妻の死亡当時の年収が850万円未満であることが条件です。夫に確認したところ、妻の死亡当時も年収は850万円を超えていたそうです。したがって、夫には遺族基礎年金も遺族厚生年金も支給されません。

ただし、妻の死亡当時850万円以上であっても、おおむね5年以内に850万円未満となる事由がある場合は、遺族年金を受けることができます。例えば、5年以内に定年退職となる場合には、それを確認できる就業規則等を添付すればよいのですが、今回のケースでは、妻の死亡当時、夫は50歳で5年以内に定年退職とはならないので、やはり収入要件は満たすことはできません。

また、収入要件の他にも、遺族厚生年金には年齢要件もあり、妻が死亡した当時夫は55歳以上であることが必要です。相談者の方は、こちらの方も満たしていないことになります。遺族厚生年金の年齢要件は、妻にはないので、男女平等の観点から今後見直しがされるべきではないかと思います。

(2)子の受給要件について

夫には遺族年金の受給権は発生しませんが、妻の死亡当時小学校6年生であった子については、遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権が発生します。

ただし、子に生計を同じくしている父母がいる場合には、遺族基礎年金は支給停止となるので、子には遺族厚生年金だけが支給されることになります。子に支給される遺族厚生年金は、子が18歳の年度末(障害がある場合は20歳)を迎えるまで支給されます。

(3)遺族厚生年金の金額

遺族厚生年金の金額は、死亡するまでの加入実績に基づいて計算される老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。また、厚生年金に加入中に亡くなった場合は、加入期間が短くても25年加入とみなして計算されます。

もし、死亡時に厚生年金に加入しておらず、国民年金第3号被保険者だった場合でも、受給資格期間が25年以上あれば遺族厚生年金は支給されます。今回の事例では、受給資格期間は28年(=9+4+15)なので死亡時に厚生年金に加入していなくても遺族厚生年金は支給されますが、その金額は本来の加入期間(9年)に基づいて計算され、25年のみなしはありません。

したがって、万一の備えとしては、厚生年金に加入している方が有利であるといえますね。

(4)年金の時効に注意

ここで、もう一つ注意しておくべきことがあります。それは、年金の時効についてです。遺族年金の時効は5年なので、5年を過ぎた分は受給することができません。今回のケースでは、妻が亡くなったのが平成28年9月で、請求手続きをするのが令和3年7月なので、ぎりぎり5年以内でした。したがって、遺族厚生年金は、過去に遡って全額が支給されることになります。アドバイスをしてもらった知人の方に感謝ですね。

(5)死亡一時金について

最後に今回の事例では、亡くなった妻が国民年金の第1号被保険者として保険料を納付していた期間が4年あるという部分もポイントになります。それは、国民年金保険料が掛け捨てとならないように、死亡一時金という制度があるからです。

死亡一時金は、国民年金第1号被保険者の保険料納付済期間が3年以上ある方が死亡した時に遺族が受けることができます。

掛け捨て防止という趣旨のため、死亡した方が老齢基礎年金、障害基礎年金のいずれかを受け取っていたとき、または遺族基礎年金と受け取ることができる方がいる場合には、死亡一時金は支給されません。

今回のケースでは、子に遺族基礎年金の受給権はありますが、先に説明した通り、生計を同じくする父がいる場合は、子の遺族基礎年金は支給停止となり受け取ることができないので、死亡一時金が夫に支給されます。

死亡一時金の金額は、保険料納付月数によって決まっていて、納付月数が48月(4年)の場合には12万円です。しかし、ここで問題がありました…

それは、死亡一時金の時効です。遺族年金の時効は5年ですが、死亡一時金の時効は2年なんです。したがって、残念ながら死亡一時金は受け取ることができないということになります。相談者の方は「妻が亡くなって、役所に届出した時に教えてもらえればよかったのに」と仰っていました。

通常、高齢者の方が亡くなった場合は、役所に死亡届を出す際に、年金に関する手続きも案内してもらえるようですが、年金を受給していない現役世代の方が亡くなった場合には、そういう案内は無いのかもしれません。そこら辺の行政サービスの改善が望まれるところですが、私たちも、日ごろの情報発信やお客様に対するアドバイスはしっかりとできるようにしておきたいものですね。


公的保険アドバイザー協会
アドバイザリー顧問
髙橋義憲

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