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年金相談の現場から 第6回 

2020年11月号 障害年金について

今回は、障害年金についてお話ししたいと思います。障害年金は、その請求の方法、障害状態の認定など、老齢年金や遺族年金と比べて複雑なことも多く、障害年金の請求手続き代行を専門にしている社労士も多くいらっしゃいます。私は、まだまだ障害年金に関しては知識や経験を積むことが必要と感じていますが、今回は、年金事務所の窓口における相談を通じて得たことをお伝えしたいと思います。

障害年金に関する基本的な事項

障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。老齢年金や遺族年金と同様に、障害基礎年金と障害厚生年金があり、それぞれ以下の要件のすべてに該当する方が受給できます。

この中で、初診日が20歳前である障害基礎年金は、「20歳前の傷病による障害基礎年金」と呼ばれ、手続き等が若干異なる部分もありますが、詳細については割愛させていただきます。

【初診日とは】
障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日をいいます。同一の病気はけがで転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日が初診日となります。

【障害認定日とは】
障害の状態を定める日のことで、その障害の原因となった病気やけがについての初診日から1年6か月を過ぎた日、または1年6か月以内その病気やけがが治った場合(症状が固定した場合)はその日をいいます。

【障害等級】
障害等級については、日本年金機構のホームページで公開されている「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」(以下「認定基準」と呼ぶ)に基づいて認定されます。認定基準には、障害の部位毎に検査の数値、障害の状況に基づいて、どの等級に該当するか解説されています。その中で、障害状態の基本として示されているものを要約すると以下のようになります(日本年金機構「障害年金ガイド」より抜粋)。

障害年金の等級は、身体障害者手帳の等級とは別のもので、同じになるとは限らないので注意が必要です。

【障害年金の額】
障害年金の等級と年金額の関係をまとめたものが下の図です(日本年金機構「障害年金ガイド」より抜粋。注釈※1の計算式の掲載は省略)。

初診日が厚生年金加入期間であれば、障害厚生年金に該当し、障害等級が3級で障害年金を受給することができ、1級・2級であれば障害基礎年金もあわせた2階建ての年金となります。

初診日が国民年金第1号および第3号被保険者の期間であれば、障害基礎年金のみが対象で、1級・2級に該当した場合のみ障害基礎年金を受給することができます。

それでは、次に障害年金の実務的なポイントについて見ていきましょう。

初診日が最も重要

障害年金の請求において、もっとも重要なものは「初診日」です。その理由は、以下の通りです。

  1. 初診日において加入していた制度(国民年金か厚生年金)によって、給付内容が決まる。
  2. 初診日の前日において、保険料納付要件がチェックされる。
  3. 障害認定日は、初診日を基準にして、そこから1年6か月を経過した日として定められている。

1.については、在職中で厚生年金に加入している時に初診日があれば、障害厚生年金の対象となり、障害等級が3級でも年金を受給することができ、2級、1級ならば、障害基礎年金との2階建てとなります。

会社を退職し、独立を目指すという場合、退職後は厚生年金から国民年金に移る場合がありますが、その際に、健康面の不安があったら、退職前にお医者さんを受診しておく方がよいかもしれません。その時の症状が、将来万一障害状態になった時の病気と因果関係が認められれば、障害厚生年金の対象となる可能性があるからです。なお、健康診断で異常が指摘されていても、お医者さんを受診しなければ初診日とは認められないので、注意が必要です。

また、パートの主婦で現在は夫の被扶養配偶者として、国民年金第3号被保険者となっている場合も、適用拡大などを機に厚生年金に加入すれば、その後、病気やけがで障害状態になった時に、障害厚生年金の対象になるので、万一の備えとして安心感が高まるでしょう。

次に、2.について注意しなければならないことは、初診日の後に滞納していた期間の保険料を納めたり、免除や納付猶予の手続きをしても、時すでに遅しということです。

保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」は、保険料を払えずに滞納している学生が、ケガや病気で障害状態になった時に障害年金を受給することができなくなることがないように創設された制度です。このような手続きを怠っていたために、障害年金を受給できなくなったとしたら、生涯で数千万円の損失ということになり兼ねず、悔やんでも悔やみきれないでしょう。私たちも、若い方に公的年金保険についてお話しするときには、障害年金のことをまず第一に伝え、保険料の納付や免除・猶予の手続きをちゃんとするように薦めることが重要かと思います。

3.の障害認定日は、初診日が決まったら、そこから1年6か月経過した日となります。障害認定日から3か月以内の日付における病状について、診断書を作成することになりますが、特別な治療を受けたり、装置をつけた場合には、特例として初診日から1年6か月を経過する前に、障害認定日となるケースがあります。

認定基準から、そのようなケースをまとめたものが以下の表です。あくまでもこれは、認定基準における一部の例示であり、等級も目安として見てください。

【障害認定日の特例(例示)】

請求手続きの流れ

それでは、請求手続きの大まかな流れを見てみましょう。

(1)初診日の証明をとる
先にお話しした通り、まずは初診日を確定することが重要です。初診日の証明を、その時に受診した病院で作成してもらいます。初診日の証明は「受診状況等証明書」(以下「受証」と呼びます)といい、年金機構が定めた書式があるので、これを使用します。

発病したのが何年も前で、病院がなくなってしまったとか、病院に診療録が残っていないために受証を作成してもらえない場合は、その旨の申立書を作成し、診察券やお薬手帳など、受診したことの証明となるものがある場合にはそれを添付します。

そして、初診日で受診した病院で受証が取れない場合は、その次に同じ病気で受診した病院で受証を取ります。また2番目の病院でも受証が取れない場合は、申立書を作成し、3番目の病院で受証を取ります。このようにして、受証が取れるまで過去に受診した病院をたどっていくことになります。

初診日における受証の有無が、障害年金の審査に及ぼす影響は、各人の年金加入歴や加入記録によって異なります。

例えば、ずっとお勤めで厚生年金に加入していた人の場合は、初診日が多少ずれても、対象となる障害年金は障害厚生年金で、かつ厚生年金であれば未納ということはないので、受証が取れずに申立書を提出する場合でも、審査に与える影響はそれほど大きくないかもしれません。

一方、初診日がずれることによって、国民年金か厚生年金か、加入制度が変わってしまう場合や、保険料の納付要件を満たすか否か変わってしまう場合には、審査に与える影響が大きく、初診日が認められずに障害年金が認定されない可能性も、相対的に高くなるでしょう。

したがって、例えば糖尿病と診断され、いまは障害等級に該当するほどではないけれど、将来に病状が悪化して、人工透析を受けることになるリスクがあるならば、今のうちに、受証を取っておくという選択肢もあると思います。受証を作成してもらうためには手数料がかかりますが(病院によって異なりますが5千円~1万円あたりが相場のようです)、保険だと思えば高くないかもしれませんね。

また、受証をとったら、内容を確認した方が良いでしょう。確認のポイントは、受証を作成した病院の前に、同じ病気で別の病院を受診していたことを示唆するようなことが書かれていないか、ということです。前に別の病院を受診していたというようなことが書かれていると、その病院で受証を取りなおす必要性が出てくる可能性があります。自分の記憶には残ってなくても、受証を作成した病院の診療録に残っていることもあるので注意が必要です。

(2)診断書を準備する
受証(あるいは申立書)によって初診日が確定したら、次は診断書を病院で作成してもらうことになります。診断書は、まず障害認定日以降3か月以内の病状について、障害の種類ごとに定められた書式を用いて病院で作成してもらいます。

障害認定日においては病状が障害年金に該当するほど重くなかったり、障害認定日が昔のために診断書を作成してもらえない場合は、現時点の病状についての診断書を作成してもらいます。

また、障害年金の請求日が認定日から1年以上経過している場合も、現時点の診断書を取って、認定日のものと合わせて提出する必要があります。

診断書を作成してもらうのにも、通常は手数料がかかります。これも受証と同様に病院によって異なりますが、1万円~2万円あたりが相場のようです。

(3)請求書を提出する
(1)、(2)の準備ができたら、いよいよ請求書の提出です。受証と診断書の他に、請求者が自らの病状や就労状況等について申し立てをする「病歴・就労状況等申立書」を作成し、配偶者や子の加算がつく可能性がある場合には、戸籍謄本を請求書に添付して提出します。

請求の方法には、通常、障害認定日での病状で審査を受ける「障害認定日による請求」(以下「認定日請求」呼ぶ)と、障害認定日では障害等級に該当するほどの重症ではなかったけど、その後症状が悪化し、請求時点での病状に基づいて審査を受ける「事後重症による請求」(以下「事後重症」と呼ぶ)の2つがあります。障害認定日で障害等級に該当する状況であったとしても、その時の診断書が準備できない場合は事後重症による請求ということになります。

認定日請求で障害年金が認められると、障害認定日の翌月分からの年金が遡って支給されます(5年の時効あり)。

事後重症で認められると、遡りはなく、請求日の翌月分から支給されます。また、事後重症の場合は、65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があり、老齢年金を繰上げ受給した後では事後重症による請求はできません。

障害年金の手続きは、このように3回程は年金事務所に通って、受証や診断書の内容を確認しながら進めることになります。中には、手間を省くために、受証と診断書をまとめて取ってくると申し出る方もいらっしゃいますが、もし、取ってきた受証の初診日より前に、同じ病気で別の病院を受診していたことが発覚したりすると、受証の取り直しだけでなく、障害認定日もずれるので診断書も取り直す必要が出てくる可能性があり、追加の費用が掛かってしまうことにもなりかねないので注意が必要です。

以上、今回は障害年金についてお話しさせていただきました。年金事務所の窓口に相談にいらっしゃる方の中には、障害年金の制度や仕組みについてよく知らなかったために請求が遅れてしまったという方も結構いらっしゃいます。皆さまの周りやそのお知り合いに障害年金に該当しそうなかたがいらっしゃったら、年金事務所もしくは社労士のような専門家と相談するようアドバイスしてあげてください。

公的保険アドバイザー協会
アドバイザリー顧問
髙橋義憲

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