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第25回 目には目を、ヒューリスティックにはヒューリスティックを

2022年1月号

タイトルを見て、「何のこっちゃ?」と思う方も多いと思いますが、それについては後ほど説明するとして……

今回は、公的保険アドバイザー協会のYouTube公式チャンネルで公開された動画「お神輿から肩車へ?年金制度は大丈夫?」に関連したお話をしたいと思います。

こちらの公式チャンネルでは、年金、医療、介護などの社会保険について、代表理事の𡈽川さん、理事の山中さん、福島さんが対話形式で分かりやすく解説をしています。動画は2~3分でまとめられていて、ちょっとした空き時間で知識の確認やブラッシュアップができるので、是非チェックして下さい!……っと会員の皆さんは、すでにご存じですよね。失礼しました。

さて、1月13日に公式チャンネルで公開された「お神輿から肩車へ?年金制度は大丈夫?」ですが、タイトルからわかるとおり、世代間扶養である公的年金が、支え手である現役世代の数が減っていく中でも制度が維持できるのか、多くの方が不安に感じている点を取り上げています。

動画では、権丈善一教授(慶應大学商学部)の「ちょっと気になる社会保障V3(勁草書房)」の冒頭にある、下の図表の内容が紹介されていました。

多くの方の頭の中には、図表の真ん中にある「高齢者1人を支える現役世代の人数」の推移が刷り込まれていて、「みこし型」→「騎馬戦型」→「肩車型」と、高齢者を支える現役世代の数は減少していくので、将来の年金は激減するとか、破綻するものだと誤解している人は少なくありません。

しかし、権丈先生は、その下に「就業者1人が支える非就業者の人数」というデータを示して、以下の様に解説しています。

視点を変えて、社会全体で就業者1人が何人の非就業者を支えるかを見ると、1人程度でこの数十年ほぼ安定しており、将来もあまり変わらない。実態としては、若い世代の将来の負担が何倍になるわけでもない。(ちょっと気になる社会保障V3より引用)

私も初めて「就業者と非就業者」という視点を示されて、大変驚きました。そして、上に続く解説を見て、「なるほど、少子高齢化といっても悲観することはない」と納得したのです。

女性や高齢者が働きやすい環境を整え、支え手に回る人を増やすことで、少子高齢化社会の荒波も何とか乗り切れることがわかる。少子高齢化に耐えうる仕組みに転換するには、雇用の見直しこそが最重要課題。(ちょっと気になる社会保障V3より引用)

「これで、公的年金制度は安泰です!」と太鼓判を押したいところですが、「就業者と非就業者」のデータを読み解く、もう1つ重要なポイントがあることに、皆さんはお気づきでしょうか?

上の図表をもう一度よく見てください。人口構成のグラフが示されていますね。これを数字で示したものが下の表です。この表を見ると、「みこし型→騎馬戦型→肩車型」というのは、(B)と(C)の比率を見ているのであって、(A)すなわち子どものことを支える対象として含めていないことに気がつくと思います。

子どもの数(A)は、高齢者(C)と対照的に減少していて、子ども1人を支える現役世代は、1.8(1970年)→3.3(2020年)と「肩車型」→「騎馬戦型」という感じで増えています。したがって、「子どもと高齢者を支える現役世代の数」は、1970年が1.5であったものが、2020年は1.2と、それほど大きく変わっていません。

このように、支えられる側に子どもを入れて見ると、現役世代の負担は、昔とそれほど変わっておらず、これが「就業者と非就業者」の比率がほぼ一定となっていることの主たる理由なのです。

権丈先生は、もちろんそのことを承知の上で、とかく少子高齢化というと「みこし型→騎馬戦型→肩車型で将来は絶望」という、ヒューリスティックな論考にとらわれている世の中に対して一石を投じるために、「就業者と非就業者の比率は変わらないので心配する必要はない」というような、ある意味ヒューリスティックな論考を示したのでしょう。

ヒューリスティックとは、物事を直観的に理解することを言いますが、公的年金に関しては、直観的に考えると間違ってしまうことがあるということは、以前のコラム(第14回公的年金保険のファクトフルネス後編)で説明したとおりです。

これが、「目には目を、ヒューリスティックにはヒューリスティックを」という今回のコラムのテーマというわけです。しかし、公的年金の世界だけで見ると、やはり従来の「みこし型→肩車型」ということになるのでしょうか。

下のグラフは、2019年財政検証における被保険者数と受給者数の見通しのデータです。やはり、受給者1人を支える被保険者の数(グラフの赤線)は、現在の2人から1.3人と35%程低下します。しかし、団塊ジュニア世代が抜けていく2060年以降は一定となり、完全な「肩車」状態にはなりません。

年金の給付水準(所得代替率)は、積立金を活用することによって、2割前後の低下にとどめることができ、さらに適用拡大などの制度改革を実施すれば、給付水準を改善することが可能です。

このように、「少子高齢化が進むと支え手がいなくなり、将来は絶望」と、思考停止状態に陥るのではなく、「就業者と非就業者の割合は変わらないので何とかなる」という気持ちで、女性と高齢者の社会参加の促進と、すでに示されている処方箋に従って年金改革を進めていくことが重要でしょう。

そして、子どもの数が減っていくことは、子どもを支える負担が減るからと喜んでいいものではありません。子どもと子育てを支えるための施策と財源についても、私たち国民全体で議論をしていく必要があるでしょう。

これがいわゆる全世代型社会保障ということになるのですが、以前のコラム(第23回社会保険料について考える)でお話ししたように、「全世代型の社会保障への転換は、世代間の財源の取り合いをするのではなく、それぞれ必要な財源を確保することによって達成を図っていく必要がある。」という社会保障制度改革国民会議の報告書にある一文を忘れないようにしたいものです。


公的保険アドバイザー協会
アドバイザリー顧問
髙橋義憲

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